人と人とにはさまざまな関係・距離感がありますが、調にも近い・遠いがあるんです。
聴音にも関係してくる内容なので、目を通してみてください!

近親調

その名の通り、近しく親密な関係をもつ調を近親調といいます。
どのような関係の調が近親調なのか、早速見てみましょう。
・・・その前に、基準となる調のことを主調と呼びます。
ここでは主調をハ長調として、それぞれの関係を見ていきます。

属調

主調の完全5度上の音(=属音)を主音とする調を、属調といいます。
属調は、主調と同じ長短(主調が長調ならば、属調も長調)です。
例えば主調がハ長調の場合、属調はト長調となります。

下属調

主調の完全5度下の音(=下属音)を主音とする調を、下属調といいます。
下属調は、主調と同じ長短(主調が長調ならば、下属調も長調)です。
例えば主調がハ長調の場合は、下属調はヘ長調となります。

平行調

同じ調号を持つ長調と短調を平行調といいます。
例えば主調がハ長調の場合は、平行調はイ短調となります。

同主調

同じ主音を持つ長調と短調を同主調といいます。
例えば主調がハ長調の場合は、同主調はハ短調となります。

近親調を図に示す

上記で説明した近親調を、図にまとめると以下のようになります。

これをハ長調を主調として書くと、以下のようになります。

(1)と同様、3連符はどこにも合わずに食い込む感じ。
付点八分で始まる方は、半拍区切りとの相性が良い感じいです。
こちらも半拍カウント付きでもう一度聴いてみましょう。

近親調はなぜ近親?

さて、ではなぜこれらが近親調なのでしょうか?
どうして「近親」な関係は、お隣の2度上(下)でなく、5度上(下)なのでしょうか?
簡単に見てみましょう。

主調と属調との関係

引き続き、ハ長調を主調として見てみましょう。
属調は完全5度上のト長調となります。
この2つの調の音階を比べてみましょう。

主調と属調

同じ音を同じ色で囲んでみました。
ハ長調の第4音である「ファ」と、ト長調の第7音である「#ファ」以外は共通していますね。

主調と下属調との関係

同様に、主調をハ長調とし、その下属調であるヘ長調と比較してみます。

主調と下属調

ハ長調の第7音である「シ」と、ヘ長調の第4音である「♭シ」以外は共通していますね。

主調と平行調との関係

同様に、主調をハ長調とし、その平行調であるイ短調と比較してみます。
ここでは和声的短音階を例に使っています。

主調と平行調

ハ長調の第5音である「ソ」と、イ短調の第7音である「♯ソ」以外は共通していますね。

主調と同主調との関係

同様に、主調をハ長調とし、その同主調であるハ短調と比較してみます。
ここでは和声的短音階を例に使っています。

主調と同主調

ハ長調とハ短調共に第3音の「ミ」と「♭ミ」、第6音の「ラ」と「♭ラ」以外は共通していますね。

たくさんの共通音、そして和音も

以上に示したように、近親調どうしはたくさんの共通する音を持っているのです。
さらに、和音を考えてみましょう。

❶ドミソは、主調(ハ長調)のⅠであり、属調(ト長調)のⅣであり、下属調(ヘ長調)のⅤでもあります。
❷レファラは、主調のⅡであり、平行調(イ短調)のⅣでもあります。
❹ファラドは、主調のⅣであり、下属調のⅠでもあります。
❺ソシレは、主調のⅤであり、属調のⅠでもあり、同主調(ハ短調)のⅤでもあります。
❻ラドミは、主調のⅥであり、平行調のⅠでもあります。

このように、主調の音階上の和音と、近親調の主要3和音との共通もあるのです。

近親調の音が使われる時

レッスン1:音階に無い音の中で、「一時的に他の調の和音を使う時」について触れましたが、まさにその「他の調」として使われることが多いのが、この近親調なのです。
(近親調以外の調が使われることも、もちろんあります)

楽曲は、曲の途中で調が変わる「転調」が使われることがありますが、そのような大きな変化ではなく、曲の中のほんの一部に、他の調の音が使われることが多々あります。
例を見てみましょう。


短い中に無理矢理に全部詰め込んだので、ちょっと不自然なメロディーですがご了承を。
ハ長調の曲ですが、楽譜中の
❶は、平行調(イ短調)のⅤ7ーⅠ
❷は、下属調(ヘ長調)のⅤ7ーⅠ
❸は、属調(ト長調)のⅤ7ーⅠ
❹は、同主調(ハ短調)のⅤ7ーⅠーⅣ
を使っています。
このように、これらの調はとても近い存在の仲間なので、気軽に頻繁に行き来できるのです。

そしてこれらを聴音にどう役立てるかと言うと、こういう理論を知っておくことで、調音力が完璧でなくとも
「あ、この響きは下属調に行った時の響きだ」などと分かれば、その調の下属調を頭に浮かべて、主調にはない音(主調がハ長調ならば「♭シ」)を検討することが出来るでしょう。
また、この理屈を理解できていれば、上記❷に出てくる「♭シ」が「『♭シ』なのか『♯ラ』なのか?」などという迷いや間違いも無くなるでしょう。

練習問題

4小節という短い間に上記の音の展開を持ち込むには少々無理がありますが、無理に入れました。
正解することだけを目的にせず、どの部分にどういう関係の調の音が使われているのかも考えてみてください。

1問目

ハ長調(C dur)
4/4拍子
4小節・ト音譜表

2小節目後半から3小節目前半にかけて、平行調であるイ短調のⅤ7ーⅠを使っています。

2問目

ハ長調(C dur)
4/4拍子
4小節・ト音譜表

2小節目は属調であるト長調のⅤ7-Ⅰ、また3小節目後半は同主調であるハ短調のⅣを使いました。

3問目

ハ長調(C dur)
4/4拍子
4小節・ト音譜表

2小節目後半から3小節目前半にかけて、下属調であるヘ長調のⅤ7-Ⅰを使いました。

4問目

イ短調(a moll)
4/4拍子
4小節・ト音譜表

2小節目は下属調である二短調のⅤ7-Ⅰ、3小節目は平行調であるハ長調のⅤ7-Ⅰを使いました。

5問目

イ短調(a moll)
4/4拍子
4小節・ト音譜表

3小節目は同主調であるイ長調のⅠ-Ⅳでした。

おわりに

以上、近親調の知識を聴音に活用する話でした。
いきなり〇〇調だのⅠだのⅣだのⅤ7だのの理論の話ばかりで、さらに聴音までして…と大変だったかも知れません。
ですが頭の片隅にこの知識を留めておいて、何かの曲で「音階構成音じゃない流れだな」と感じた時に、余裕があったらちょっと分析してみてください。
また、近親調のⅠ、Ⅳ、Ⅴ7を利用して簡単な曲を作ってみてください。
すぐには無理でも、経験を重ねていくうちに、これら近親調に進んだ時のそれぞれの独特の響きが分かってくるようになるでしょう。